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TrueVoice Vol.04

Vol.4 怪魚ハンター 小塚拓矢インタビュー(後編)

忘れられぬ感覚と残酷さの自覚
腕の中で突然息絶えたピラルクー

世界の怪魚を釣ろうと、パプアニューギニアに“ぶっこんだ”小塚だが、いきなりマラリアと思しき洗礼を受ける。「世話になった村で唐辛子と野鳥のスープをもらい、二晩寝込んでようやく歩けるようになった。とはいえ、マラリアかどうかは今もわからない。関節痛などの症状から『多分マラリアだったんだろう』と思うけど、僻地過ぎて診断してくれる病院がなかったので(笑)」。
しかし、小塚は全く懲りなかった。パプアでは今まで見たことがないような淡水魚を次々と上げ、懲りるどころか、「ほかのまだ見ぬ怪魚も釣りたい」と、欲求はエスカレートしていった。成功体験がさらなる成功体験を求める。小塚は欲深い性格と相まって、成功のインフレーションの呪縛にとりつかれたのだ。
だが、そんな小塚に転機が訪れる。2008年にアマゾンに釣行したときのことだ。2mを優に超えるピラルクーを釣り、引き揚げた瞬間、自分の腕の中で息絶えてしまったのだ。「あっという間の出来事。自分よりデカイ魚を殺してしまった感覚は今でも忘れられない。自分はものすごく残酷なことをやっていると自覚しました。それからは一度釣って満足したら、同じ獲物は二度と狙わないのが基本になった。同じものをたくさん釣ったり、サイズアップを狙ったりしないようになったのは、そのときの罪悪感があるから」。
一方で、その戦歴は華やかさに磨きがかかっていく。翌年にはコンゴに釣行し、小塚の代名詞となった怪魚「ムベンガ」をその手に抱き、2012年にはパプアでのこぎりのような巨大な角を持つ「ディンディ」、2013年はスリナムで淡水魚世界最強と言われる「ピライーバ」を抱き上げた。数々の成功体験、数々の実績を積み上げ、小塚は名実ともに、日本を代表する“怪魚ハンター”と呼ばれるようになったのだ。

“怪魚”をひたすら狙う釣行の終焉
進化の空白地帯を埋めるのが今のテーマ

だが、小塚自身、この“怪魚ハンター”という肩書を好きになれない。「一つは、“珍獣ハンター”のようなタレントと一緒に見られることに抵抗がある。もう一つは、“ハンター”というコトバの、バイオレンスな響き。じつは大きな魚への欲求は2013年にピライーバを釣り上げたときが頂点で、今は基本的に“怪魚”や“巨大魚”をひたすら狙うことは、先述の罪悪感もあり、自分の中で終わっている」。小塚が怪魚を狙わない? どういうことか。
「いや、もちろん釣ったことがない魚は釣りたい。でもそれが必ずしも怪魚(巨大淡水魚)ではなくてもいいということ。今日釣ったギバチも僕にとっては価値がある(前編参照)。それに今は魚の進化のほうに、より興味がシフトしている。淡水魚はそれぞれの川で独自の進化を遂げていて、どの川にどんな魚が住んでいるのか、まだまだわからないことが多い。実際に現地に行って、自分の体験を通して、地球を感じたい。“調査”だけなら、魚市場に行けばいいけど、能動的に、双方向的に、自然とかかわりあいたいから竿を出す。言ってみれば“進化の空白地帯”を埋めていくことが僕の今のライフワーク」。
小塚の説明はこうだ。例えばライギョはインドやアジアの川にもアフリカの川にもいるのに、中東にいないのはなぜか。じつは、インドは1億5000万年前、マダガスカル島につながり、アフリカと地続きだった。それが1億年かけて現在の位置まで移動。つまり、ライギョはインド亜大陸に乗ってやってきて、アジア方面に広がったわけだ。
一方、インド以西にはいないといわれる。つまり、中東はライギョのいない、空白地帯。ではいったいどんな淡水魚がいるのか。近年は紛争が多い危険地帯のため、釣りはおろか旅をすることすら難しかった。「皮肉なことに、中東(の釣り)の未知は、サダム・フセインに守られていたようなもの」と、小塚は指摘する。「だから、僕は今年(2014年)の夏に、中東のチグリス・ユーフラテス川に行って、実際に釣って自分の目で確かめてみようと思っている」。

中東の釣行では自転車で1000kmを駆ける
「マンガル」で20代の挑戦にケリをつける

チグリス・ユーフラテス川に至るまでの旅程も独特だ。まずトルコの首都イスタンブールに入り、自転車を購入する。そこから目当ての川の流域までの距離はざっと1000km。その遠路を自転車で走破しようというのだ。時間的なことを考えれば、目的地の最寄り空港まで飛行機を使えばいいし、出費面で考えるなら、自転車での移動で日数がかさむ分、夜行バスを使うほうが安く抑えられるはず。「でも、より大きな満足を求めるなら、どうするかと。欲張りですから(笑)。過酷な旅を乗り越えて獲物を捕らえたほうが、達成感は倍になる。僕にとっては、魚を釣るという結果以上に、その間のストーリーがとても大切な要素」。最小の搾取で最大の満足を得るための小塚なりの工夫だ。
自転車で旅をする理由はもう1つある。高校時代、通学用のママチャリで、同級生と一緒に富山と神戸を往復するおよそ800kmの自転車旅行を決行した。それが小塚が「旅」という一文字から連想する原体験だ。つまり、チグリス・ユーフラテス川の釣行では初心に還ろうとしている。「より正確に言うと、初心にどこまで還れるかを、体験したい。完全に還れるわけはないとわかっていて、そのうえで、あえてクサいことやってみたいというか」。
最終ターゲットは決めている。マンガルという巨大魚だ。曰く、「ウグイのおばけ。ウグイは小学生の頃から実家の裏の用水路で毎日釣って遊んだ魚。たぶん一番多くルアーで釣った魚じゃないかな。マンガルはその世界最大最強種。なんとなく、ひとつの締めくくりとして、縁を感じる」。
しかし、旅の途中で小さい川があれば自転車を止めて竿を入れてみようとも考えている。あるいは、本家本元のヨーロッパ大ナマズを釣った経験がないので、それにも挑戦するつもりだ(カザフスタンで移入種を釣ったことはある)。「マンガルをこの手に抱くことで、海外を飛び回ってきた20代、“怪魚”という時代の、一応の到達点としたい」と、小塚はこの旅の意味を説く。

新たな目標は“深さ”
時間軸を遡る旅にも意欲を燃やす

闇雲に怪魚を狙うことに終止符を打ち、小塚はどこに向かうのか。一つは深海への挑戦だ。まずは北海道で深海魚の究極のターゲットと言われるベニアコウを狙う。普通に餌釣りをするのではなく、ジギングで釣り上げることにクリエイティブを感じるという。「エサ釣りでは確立されてますから。確立されてる釣り物の船釣りって、自分の中では、ガイドに案内される怪魚釣行と同じ。“釣らせてもらった”の域。僕はもうその段階では、満足できない。400mでのアブラボウズまでは、ジグで結果を出した。そのうえで、もっと深く。水深700m~900mにジグを。北海道の船頭に聞くと『うちではルアーで挑んだ人はまだいない。無理だろう』という。少なくともその地では、誰もやったことがない。ならば、僕は燃える。“釣らせてもらった”の域を出るから。より高い満足度を求め、竿もジグも自作。リールは手巻き。手にする1匹に、自分の割合を増やしたい。それが、僕の現在のステージ」。
ベニアコウの次はさらに深い場所に生息するソコボウズ。1500m以深を想定しているという。「ルアーで、とか、それも自作で、とか、手巻きで深海、とか……そんな方法論の追求を突破するのが、この段階かなと。このステージあたりから、釣りは冒険に昇華すると思う」。その先には、小笠原沖の日本海溝、およそ9000mを視野に入れる。「アメリカの8372mの海溝でヨミノアシロという魚の生息が確認されている。だから何らかの魚はいるでしょう。大量の糸が必要になるけど、物理的には底まで糸をたらすことは可能。仕掛けが底に付くことを僕はよく『地球とキスする』と言うけど、それを日本の海溝でやってやろうと」。“国内で”ってこだわりもないけど、淡水と比較して、海は必然的に大掛かり。怪魚(淡水巨魚)が個人戦だとしたら、深海はチーム戦。単独行は不可能。であれば海外だと、装備とか許可とか面倒なので国内の方が可能性は高まるなと。海は世界中で繋がってる、それが“怪魚”(淡水魚)との違い。極地以外の深海魚の顔ぶれは、世界の海で似通っている。・・・この対象魚不明、「ナニカ」を狙うというのが、究極ステージかなと。深度という意味も合わさって。小笠原といっても、ダイオウイカにはそこまで強い興味はない。釣れたら嬉しいけど、べつにそれは、NHKさんの後追いに近いから。漁では既に釣りあげられてるし。・・・あと、“怪魚”(淡水僻地旅)って、孤独ですから。歳のせいなのか、最近はチーム戦の深海が楽しくて。同じ価値観を共有する仲間が増えた、増やした(洗脳した?)、そんな今だからできる挑戦です」。

もうひとつの方向性は“時間軸”
そして、シーラカンスという野望

もう一つの方向性は、古来の釣り具を試みることだ。「水深と並行して、趣味性の深みも目指すというか」。例えば昔、釣り糸は「テグスサン」という蛾(ガ)からとられる糸を使って作った。釣り糸が「テグス」と呼ばれる所以だ。魚を釣ることを体験する。「いわば、時間軸への旅。ラインメーカーさんのインタビューだからこそあえて言うと、○○用ライン、で○○が釣れるのは、もちろん当たり前ですから。そこには僕は、僕の求めるクリエイティブを感じない。確証がないこと、僕はそこに燃える。釣りって、釣れるか、釣れないか微妙な『境目』に挑むのが一番楽しくないですか?」。先日はアメリカに飛び、インディアンが行っていたとされる、『素手』を食わせる原始的な釣法「ヌードリング」に挑戦し、16kgの巨大ナマズを抱いた。時間軸を遡る旅でも、国内外あらゆる方角に放浪し、何でもやってみる。「もう、海外にこだわる理由もない。“怪魚ハンター”には縛られない。でも行く理由があれば、海外だってふらりと行く」。
そして、生涯をかけた挑戦が、シーラカンスの新生息地を発見すること。「新生息地、が重要。少なくとも、現在確認されてない国の海域で。逆に言うと、確認国の釣りは非現実的。ゴリラやパンダレベルの保護種ですから。新生息地にこだわるのは、そういうこと。いるかわからないところを釣るのなら、誰も文句は言えないでしょう? “怪魚”という地理的挑戦と、“深海”という深度への挑戦とが、融合する“深怪”魚……極論、シーラカンスでなくてもいい、現在の分類体系のどこにも収まらない未知の魚。これは自分一代でかなうものではないかもしれない。自分の子ども、あるいは孫とチームを組んで挑む未来像がふと浮かぶこともある。ある意味、『自作』メンバーですね(笑)。より自分の割合が高い1匹になる。そして、この『新生息地発見』という野望がかなえば、自分にとっても、世界の研究者にとっても、その地域にとっても、全方向的にハッピー」。

普通の人生に対するコンプレックス
30代は“パパになる冒険”に挑戦

地球の表面を横に移動し怪魚を求めてきた小塚は、縦の深海に、あるいは時間旅行にと進路を増やしていく。向かう先、考えていることが予測できない、他のアングラーとは全く異種の、唯一無二の存在。それが小塚の魅力だろう。
けれど、自分の人生がこれでいいのかと考えることもある。「じつは同世代で結婚して子どもができているやつを見ると、いいなって思いますよ。僕も釣りなんかにうつつを抜かさず、普通の人生を歩んでいれば、もっと早く幸せになれたのにと。そんなコンプレックスをずっと持ちながら生きている。理性の範疇を超えて、自分の感情の赴くままに驀進すると、明らかに社会からそれ過ぎていくことは、僕だってわかっている。自分でも必死に元の道に戻ろう、世間とすり合わせようと一生懸命頑張っているんです。でも、ある日突然行かなきゃと間違いを犯し、荒野にベクトルが向いてしまう(笑)。だからその繰り返しを早く修正したい。できることなら、マンガルでケリをつけたい」。

最後に30代の目標を聞いてみた。
「20代は怪魚にかけてきたけど、30代になったら次はパパになる冒険をしたいなと。というか、怪魚と同等か、それ以上に面白いことって、子育てくらいしかない気がする。家族と子どもを持てば、新しい世界も見えてくるはず。僕は釣った魚を食べることに一般的な程度の興味しかないのですが、家庭や子どもができれば、食べる楽しみもより深く見出せるんじゃないかな」。

ある冒険の終わりは、次の冒険の始まりでもある。20代を通じ、数多くの冒険を重ねてきた小塚の30代は、“怪魚”の枠を超えて進化し、深化する。(敬称略)

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